Project1 × JAバンク全国企画の移動店舗
導入プロジェクト

Introduction

JAバンクが自己改革の柱の一つとして掲げる「農業と地域・利用者をつなぐ金融サービスの提供・地域貢献」。このための取り組みとして、全国のJA・信農連では現在、「移動店舗」の導入を進めている。高齢化や過疎化を背景に、コストダウンを目的としたJAバンク支店の統廃合が進むなか、サービスの質をいかにして確保するのか。また、大規模災害の発生時に、速やかに金融サービスを被災地に届けるための手段はないか。この問いに対する答えとして、JAバンクは、一部地域で限定的に導入されていた移動店舗を全国に展開する「全国企画の移動店舗導入」プロジェクトを2015年にスタートさせた。

  • 小林

    JASTEM開発三部
    基盤開発3班

    電気通信学部
    量子物質工学科卒
    2006年入社

  • 中村

    JASTEM開発三部
    基盤開発3班

    ソフトウェア情報学部
    ソフトウェア情報学科卒
    2015年入社

  • 坂本

    執行役員
    JASTEM開発三部長

    情報処理学科卒
    1984年入社

  • 山口

    JASTEM開発三部
    基盤開発3班

    工学部
    機械工学科卒
    2002年入社

  • 北原

    JASTEM開発三部
    基盤開発2班

    経営学部
    商学科卒
    2004年入社

可能な限り早く
移動店舗を全国展開せよ

車両に窓口端末を搭載して、JAバンク店舗からの遠隔地を巡回し、実店舗と同等の金融サービスを提供する「移動店舗」。農林中央金庫の「中期経営計画(平成25~27年)」に盛り込まれたJAバンク自己改革の取り組みの一つとして、3年以内の早期実現を求められたのが、移動店舗の全国展開である。
「最大の課題は開発期間が短かったこと」と語るのは、JASTEMシステムの基盤開発を統括するJASTEM開発三部長の坂本。「農林中央金庫の方針は、移動店舗の導入は“早ければ早いほど良い”というもの。“どれだけ短期間で開発できるか”を問われたプロジェクトでした」(坂本)。その言葉どおり、プロジェクトのリリースは2016年夏に決定。実質的な開発期間は1年余りで、経験のないプロジェクトを遂行することとなった。
「技術面の課題は、それほど多くありませんでした」。ネットワークの開発を担当し、プロジェクトのマネージャーを務めた山口は振り返る。「ポイントは2つ。車両に搭載する機器とJASTEMシステムとのネットワークの無線化と、被災時に他県に配備された移動店舗を被災地の店舗として稼動させる方法。後者は、東日本大震災のときに他県の端末を福島県で利用した実績がありましたので、その時の方法を流用することができました。」(山口)。「今回のプロジェクトは、短期間で開発することがテーマ。実装する機能は“できるだけシンプルに”という方針を、システム企画の段階で関係者と共有することに注力しました」(坂本)。

誰もが「初めて」の移動店舗
一つひとつ着実に進む

新たなチャレンジとなるプロジェクトだったが、システム設計には大きな課題はなかった。「それよりも、運用面での課題が多かった」と語るのは、山口とともにプロジェクトのマネージャーを務めた小林。「通常は、事前検討や要件定義の段階で、システムの運用方法をユーザーと明示的に握ってから開発作業に入ります。でも今回は、その時間がありませんでしたので、開発をしながら運用方法を決めていくことになりました」(山口)。
「例えば、他県の移動店舗を、被災地で利用するためには、端末の設定変更が必要です。技術的には問題ありませんが、被災時にそれを誰がやるのか、というのが問題になります。エンジニアではなく、現地のJA・信農連の方にやってもらうということになれば、そのための機能が必要になります」(小林)。移動店舗は、ユーザーにとっても初めての経験。端末故障時にどう対応するか、複数のJAで端末を共有できないか。実際の運用方法を決めていくなかで、次々に課題が明らかになっていった。「課題が多くなったときは、誰の課題なのかをはっきりさせることが大事。この課題は、どの部署が、いつまでに考える、と明示的に決めて、期限が来たらきっちりと刈り取る。こうやって、関係者の協力を得て、積み重なる課題を一つひとつクリアしていきました」(坂本)。

車内レイアウトや走行テスト
知恵を出し合い、未知の領域へ

端末機器の車両への搭載を担当したのは、普段は店舗窓口で使用する端末機能の開発を行う北原だった。車のように常時揺れる環境に、端末をどう搭載するか。「最初は、端末ベンダーから“難しい”と回答を受けました。精密機器を車に乗せるのですから、当然のことだと思います」(北原)。当初、農林中央金庫を介して行っていた自動車会社との交渉も、技術的な分野まで話が進むと、スピード感を重視し直接行うようになった。「限られたスペースでの端末や通信機器の配置方法、揺れを軽減するための緩衝材など。ノウハウがないなかで、端末ベンダーや自動車会社と、皆で知恵を出し合いながら手探りで課題を解決していきました。使用する車両ごとの振動の特性を調べたり、自動車工場に直接行って話を聴いたりもしました。私自身は、車も持っていないんですけどね」(北原)。
2016年1月には、実機を搭載した走行テストまでたどり着いた。「もちろん“走行テスト”も初めてのこと。何をすればいいか、どこでやればいいか。一つひとつ検討です」(北原)。最終的には、端末ベンダーや農林中央金庫の方を伴って、山口県の自動車工場で走行テストを実施。細かな問題はあったが、その場で解決することができ、結果は「合格」。ハード面での大きな山を越えた。

地域の生活インフラとして
システムができること

開発も終盤となり、環境構築に取りかかるときにそれは起こった。2016年4月、熊本地震。これに敏感に反応した農林中央金庫から、「熊本に移動店舗を投入できないか」と問われた。 プロジェクトチームは、急きょ開発スケジュールを再検討。順序性のある作業と、並行で実施可能な作業を洗い出して組み直し、協力会社や端末ベンダーとスケジュール短縮の調整を行った。「数日後には、最短で6月1日に出せると回答しました」(山口)。結果的には、予定よりも早く現地の店舗復旧が完了し、移動店舗の派遣には至らなかったが、まさに「災害時にシステムが何をできるか」を問われた瞬間だった。
8月15日。ついに、愛知県で移動店舗第一号が運用開始。同月中に、山形県、高知県、山梨県でも運用がスタートし、2016年度中に25台、2018年度までに全国で約100台の導入が見込まれている。今後の移動店舗の導入は、2年目の中村が中心となって進めていく。「新入社員として配属された1か月後から、小林さんに付いて、このプロジェクトに関わってきました。実際に移動店舗を利用したユーザーからの声を聞いて、今後に活かしていきたいです」(中村)。
導入された移動店舗は、過疎地や被災地に金融サービスを届けるだけではない。「移動店舗に冷蔵スペースもあるショーケースを設置して、食料品の販売を行っている地域もあります」(坂本)。移動店舗は、まさに地域の生活インフラになろうとしている。「新聞やテレビで、移動店舗の運用開始が取り上げられているところを見ると、感慨深いものがありました」(山口)。「移動店舗の“開店式”をしてくれているJAもありましたよ」(北原)。自分たちが作るシステムの意味を見つめ直し、充実感と誇りを得られるプロジェクトとなった。